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War in Heaven ~Part① 開戦~

  • 執筆者の写真: gravitationalconst
    gravitationalconst
  • 2024年6月20日
  • 読了時間: 8分

更新日:2024年6月20日

2024年3月24日、ワームホール(WH)の二大勢力の一極、Singularity Syndicate(以下Synde)は、WHの最大勢力であるLAZERHAWKS(以下HAWKS)に突如として宣戦布告。その直後、HAWKSが所有する多数のC5/C6クラスのWHに対して同時多発的に侵攻を開始した。


開戦から10日でHAWKSが所有するWHのうち、約20ケ所が陥落。一連の戦闘で失われた資産は少なくとも3T(3兆)ISKにのぼると推測される。

だが、緒戦の快進撃とは裏腹に、後に「War in Heaven」と呼ばれるこの戦争は、最終的にSynde側の敗北で終結することとなる。


なにがこの戦争を惹起したのか。なぜ必勝を確信していたはずのSyndeが敗れたのか。

redditなどで交わされた当事者たちのやり取りや、事情通からの話を総合すると、Synde側が持っていた勝算と、それを崩したHAWKS側の戦略の一端が見えてきた。


この連載では、近年まれにみる規模となったこの戦争について、大まかな流れを解説していく。

初回となる今回は、開戦と緒戦の推移に触れながら、戦争の背景となるWH特有の文化についても説明する。(文責:Metallica Netherland)


◆「WHブシドー」に代表される独特のWH文化


開戦当初のSyndeの戦争目的は、HAWKSが持っている金策用のWHを奪取することだったと言われている。

実際にはWH覇権への挑戦という、より大きく抽象的な目標があったのは間違いないだろうが、少なくとも外形的に見る分にはそうだった。


戦争の話をする前に、WH勢力特有の文化と、組織同士の関係について説明しなければならない。

全部で2500以上あるWHのうち、特に金策に適した(スキルが育ったキャラクターがいればC5クラスでも時給1B=10億Iskを軽く超える)C5/C6クラスのWHは600ほど。

WH勢力の多くは、PvPの拠点として使うWH(ホームと呼ばれる)とは別に、こうしたハイクラスのWHを金策専用の拠点(ファームと呼ばれる)として保有している。


比較的所有しやすいC5クラスのWHであっても、20ほどの勢力によって寡占されており、C6クラスになるとそのほぼすべてがHAWKSとSyndeの支配下にあった。


「ファームが欲しければ、その都度奪えば良かったじゃないか」と思う諸兄もいるかもしれないが、実際はそう簡単なことではない。WHで相手の拠点を攻撃するという行為は、特別な意味を持っている。


ハイセクやヌル、ローなどの既知宇宙(Kspace)と異なり、WHはそこにたどり着くだけでも手間がかかる。

各WH空間には必ず「穴」(これが本来の意味でのWHだが、日系プレイヤーはあまり区別して呼ばない)が開いており、他のWH空間やKspaceとつながっている。

この穴は時間経過か、穴ごとに決められた一定の質量の通過で消失してしまう。その際、この穴が「固定穴」と呼ばれる各WH空間固有の穴であれば、消えた穴と入れ替わりで、先ほどとは別の場所につながる新しい穴が出現する。


特定のWHにたどり着くためには、あらかじめ対象のWH空間に探検艦に乗せたキャラを潜入させておいたうえで、穴から穴へと探知と移動を繰り返し、自分たちの拠点につながるルートを開拓しなければいけない(このつながりを鎖に見立ててチェーンと呼ぶ)。


こうした環境下で敵の拠点を奪うためにストラクチャを攻撃(相手を追い出すという意味でEvictと呼ばれる)すれば、攻める側も守る側も多大な労力が必要になる。


空母や複数の戦艦などの大質量を通して穴を潰した後、出現した新しい穴を艦隊で包囲すれば、敵の援軍を防いでこちらだけが友軍を引き入れることができる。

本気で相手の拠点を攻略するなら、このホールコントロールとよばれる退屈極まりない作業を、24時間体制で数日間にわたって続けなければならない。


戦争初期に破壊されたHAWKS陣営のFortizar。単体でも侮れない戦闘力があり、攻撃には入念な準備が必要だ


生粋のPvPプレイヤーであっても、こうした面倒ごとは避けたい。

そのため、HAWKSとSyndeは互いのWHを攻撃しないという協定を結んでいた。


ワームホーラーの間では、その日の互いのチェーンが偶然つながった際、お互いに呼びかけて純粋な楽しみのために戦闘を行うスタイルを「WHブシド―」などと呼ぶ。


HAWKSとSyndeはしばしばWHブシドーに基づく戦闘を楽しみつつも、互いの生存を脅かすEvictはしないという不思議な同盟関係にあった。


約2年前に行われたHAWKSとSyndeの戦闘。過去何度もあった両者の戦闘としては、比較的小規模なものだ


ワームホーラーの間には、こうした連帯感が確かに存在する。

特にヌル勢力などがWHへ侵攻してきた時などが顕著で、普段敵対関係にあるWH勢力でも、外敵に対しては一致団結して戦うという文化がある。


そして、WH勢力がヌルなどのKspace勢力と同盟を結び、あまつさえ彼らの力を借りて他のWH組織を侵略するのは、WH文化圏における最大のタブーの一つだった。


◆開戦準備とSyndeの「切り札」


戦争に話を戻そう。

端的に言うと、先述した「タブー」こそが、この戦争におけるSyndeの切り札だった。


ここ数年で急速に規模を拡大していたSyndeだが、この戦争を始めるために、ヌル最大手の一角、Initiativeを仲間に引き入れたのだ。もちろん、「兵隊」としてだ。


元々、Syndeは自身が所有するWHをInitiativeに貸し出すなど、友好関係を築いていた。

そして、この戦争に勝利した暁には、さらにHAWKSが所有しているC5/C6WHを与えるという約束をしていた。

Synde側についた「TURBOFEED OR GLORY」や「Sugar.」「Hole Control」といったWH勢力とも、同様の取り決めをしていたようだ


海外の大手ヌル勢力が持つ数の力については、いまさら説明するまでもないだろう。

加えて、ヌル勢力でありながら一定程度WHのノウハウを有しているという点も、Syndeにとっては都合が良かった。


数の力で勝る巨大ヌル勢力がWH勢力の指示を受けて戦うというのは、いかにも奇妙に見えるかもしれない。

ただ、NewEdenにおけるもう一つの力の源泉である「金」で考えると話は単純だ。


ヌルで一般的な金策であるアノマリラッティングでは、1キャラあたり時給数十Mがいいところだ。

これはC5/C6どころか、WHにおける初心者向けの金策であるC3でのラッティングの時給と比べても、3分の1にも満たない。

加速度的にEVE経済のインフレが進む中でSyndeから届いたオファーは、さぞ魅力的に映ったことだろう。


WHのタブーを破ってまで戦争をしかけるからには、必勝を期す必要があった。

Syndeは少なくとも1年以上前から、HAWKSのホームに多数のキャラクターを潜入させるなど、入念に準備を進めていたようだ。


◆宣戦布告における誤算


Syndeの宣戦布告に関して面白い話がある。

Syndeはこの戦争の直前、HAWKSに対して、彼らが所有するC6ファームの一部を譲渡するように要求していた。

当然拒否されるだろうと踏んでのものだ。この要求を拒否したことを大義名分に、開戦へとなだれ込む算段だった。


ところが、HAWKS側はこの要求を快諾した。Syndeにとってこれは誤算だったようだ。

ファーム目当てでSynde連合に参加した勢力にとっては、目標の一部が戦わずして達成されてしまうことになる。

一方で、HAWKSとの戦争そのものを楽しみにしていた組織やプレイヤーも少なからずいたはずだ。

彼らの手前、1年以上かけて準備しておきながら「やっぱりやめます」では済まされない。


結果、Synde連合は振り上げた拳を降ろすこともできず、外部から見ると良くわからない理由で「大義なき戦争」へと突入した。

このちょっとした誤算が、後にSynde連合に大きな禍根を残すことになる。


それにしても、なぜHAWKSの首脳陣はファームの割譲を快諾したのか。

色々な見方ができるが、「C6ファームが余っていたから」という要素が大きいと言われている。


WHでは、PvP用の拠点に滞在するメインキャラとは別に、金策用拠点に滞在させるためのALT・サブキャラを用意するのが一般的だ。先述した通りWH空間には移動の制約が多いためだ。


そして、ハイクラスのWHでは求められるスキルも高い。

C5/C6では6B以上するDN(攻城艦)か、それと同じくらい高価なインプラント込みのマローダー(効率を考えるとできれば複数隻欲しい)が必須となる。


C6ファームに住むのは、この要件を満たすキャラを複数用意でき、なおかつC5の稼ぎですら満足できないプレイヤーだ。

HAWKSほどの大きな組織でも、そうしたプレイヤーの数はそれほど多くはなかったのかもしれない。


◆Syndeの快進撃と小さな綻び


戦争の初期段階において、SyndeはHAWKSのホームには侵攻せず、ファームへの攻撃に集中する戦略を取った。

相手の金策手段を潰して兵糧攻めをしようという狙いだ。 戦術的にも、この戦争方針は上手く機能していたようだ。


無尽蔵にアノマリが出現するヌルと違い、WHのアノマリ発生速度には限りがあり、大人数が同じWH空間内で金策を行えば、あっという間にアノマリは枯渇する。

金策のために同居するのは、1拠点あたり3人程度が限界だとされている。


ファームに常時滞在するキャラの数は限られ、防衛のために人員を送るのも簡単ではない。 敵の主力艦隊がファームへ本気でEvictをしかけてきた場合、防衛側ができることはほとんどないと言っていい。


実際、Synde連合の初期攻勢はおおむね成功だったと言えるだろう。

最初の10日間で20のWHが陥落し、17基のアシュトラハス、13基のフォータイザーが破壊された。

一方で、この攻勢にはちょっとした綻びも見え隠れしていた。


戦争初期のHAWKSとSyndeの損害を比べると、HAWKS側が617Bの損害に対し、Synde側は465Bを失った。

この数字をどう捉えるかは判断が分かれるかもしれないが、損失額から建造物を除き、艦艇の損失に限定すると、明確な問題が見えてくる。


HAWKS側の損害163Bに対し、Synde側は343Bと約2倍の損害を出している。

奇襲というアドバンテージがありながら、艦隊戦ではSynde側が苦戦していたという構図が見える。

戦争初期にSyndeが多用したMegathron Navy。接近戦では無類の強さを誇る船だが、射程と速力で勝るHAWKSのVultureフリートに苦戦していたようだ


ただ、最重要目標である建造物の破壊・ファームの奪取は着実に進んでいたため、Synde連合の首脳陣はこの損害について、さほど深刻に考えていなかったようだ。


Synde連合は数で勝っていても、異なる組織の「寄せ集め」だという側面もある。

練度に関しては、確かにHAWKS側に一定の優位があった。


戦闘を繰り返すうちに連合の練度も上がり、高度な連携が取れるようになるという期待もあったかもしれない。

それを考えると、この時点でのSynde連合首脳陣の判断を楽観的過ぎると断じるのも難しいように思える。

少なくともこの段階では、多くのワームホーラーがSynde連合の勝利を信じて疑わなかった。



次回は、HAWKS側がこの状況から反撃に転じるに至った経緯について解説する予定だ。

 
 
 

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